2006年7月 6日 (木)

【Q】ジュラシックパークのように生物を作る

 今日は「こた」さんからの質問にポッドキャストでお答えしてみたいと思います。まだ、慣れていませんので、稚拙なところやお聞き苦しいところは、平にお許し下さい。

Q: ジェラシックパークの様にDNAから死んだ生物や植物を作ったり(造ったり?)ドラゴンの様な生物を造ることは可能ですか?(こた)

A: これについてはサイエンスカフェ当日にもお答えしましたが、podcastingの練習ということで再度お答えしてみます。下のファイルをダウンロードして再生してみてください。(栃内)

「jurassic.WAV」をダウンロード

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2006年6月10日 (土)

【Q】どうして「組みかえ植物」が「非組みかえ」と受粉できるの

 遺伝子組み換えカエルの研究をしている宮本さんが答えます。

Q: 遺伝子「組みかえ植物」が「非組みかえ」と受粉して問題だときいたことがあるんですが、人と猿がムリなのに「組みかえ」と「非組みかえ」はなぜ可能なんですか?(こた)

A: 人とサルや、犬と猫といった組み合わせでは子供が生まれないのは、簡単に言えば「種が違うから」です。逆に言えば子孫を作れる生き物のグループが「種」です。別種であっても子ができることはありますが、世代を経るとだめになってしまう場合が多いのです。
 たとえば馬とロバをかけあわせるとラバが生まれますが、ラバは生殖能力を持たないので子孫を残せません。それは馬とロバが別種だからです。
 しかし、組み換え植物とそうでない植物(たとえば、組み換え大豆と組みかえでない大豆)は種がちがうわけではないのです。もともとの大豆にはなかった遺伝情報がすこし加わっているだけで、種としては大豆のままなのです。ですから、子孫を作ることができるのです。
近年話題になった蛍光に光る遺伝子組み換えメダカはそのようなことをふせぐために、遺伝情報を付け加えたと同時に生殖機能を壊したそうです。
 しかし実際には生殖機能が正常に働く遺伝子組み換えメダカもいて、これが自然に離されたときに野生のメダカと交尾をして子孫が生まれてしまう可能性が出てきました。そうするともともとの生態系を壊してしまうことになります。
 このような問題が生じるため、遺伝子組み換え生物の扱いには「カルタヘナ議定書」に基づく国内法の規制のもと十分な検討と承認が必要です。カルタヘナ議定書については外務省のHPに詳しいことが載っていますが、文面がとても難しいですね。
 簡単に言えば、遺伝子組み換え生物が野に放たれることによってもともとの生態系を破壊したり、生息していた野生生物の生存が脅かされたりすることのないように定められた約束事である、ということです。(宮本)

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【Q】長沼町の遺伝子組換作物と遺伝子治療の人とを同等に論じて良いか?

 同じように遺伝子を操作するという、遺伝子組み換え作物と遺伝子治療のどこが似ていてどこが違うのでしょう。これについても、高橋さんが答えます。

Q: 長沼町の遺伝子組換作物と遺伝子治療の人とを同等に論じて良いか?(ナルミ)

A: 遺伝子組み換え作物については、別エントリー「遺伝子組みかえ作物はどこがどのように危険なのか」の最初の方に説明がありますので、ここでは詳しい説明を省かせていただきます。
 「遺伝子治療」というのは、「遺伝子の操作によって病気を治療する」というやり方にあてはまる、様々な方法をひっくるめた呼び方です。
 傷ついたり正常に機能しなくなったりした遺伝子の代わりとなる正常な遺伝子を細胞に導入する、病気の原因となっている遺伝子の働きを抑制する、などのやり方があります。遺伝子の導入法としては、ヒトの体に直接遺伝子を入れる方法と、ヒトの体から細胞を取り出し、体外で遺伝子を導入してから再移植する方法とがあります。

 さて、「遺伝子組換作物と遺伝子治療の人とを同等に論じて良いか?」というご質問ですが、結論から言えば「ダメです」ということになると思います。遺伝子組み換え作物と、遺伝子治療を受けたヒトとの間には、いくつかの大きな違いがあります。

 まず一つは、遺伝子組み換え作物の場合は「植物体全体」の細胞の遺伝子が組み換えられているのに対し、遺伝子治療は「体の一部」の細胞のみが遺伝子の操作を受けるということです。
 植物やヒトは多細胞生物であり、一つの個体が沢山の細胞からできています。そして、その細胞の一つひとつが、その生物のゲノムを持っています。植物の遺伝子組み換えというのは、まず植物細胞の遺伝子組み換えを行った後、その細胞を培養して、完全な植物体を作ります。そのため、出来上がった遺伝子組み換え植物は、全ての細胞の遺伝子が組み換えられていて、その子孫にも、組み換えられた遺伝子が引き継がれます。
 一方、遺伝子治療というのは、体の中でも、病気を引き起こしている部分の細胞の遺伝子だけを改変するものです。肝臓が悪いなら肝臓、がん細胞ならがん細胞、というように、体細胞の一部だけが遺伝子操作を受けた細胞になります。そのため、操作によって生じた遺伝子の変化が子孫に引き継がれることはありません。
 また、技術の進み方の違いもあります。遺伝子組み換え作物は、すでに世界の多くの地域で商品として大量に栽培されている段階まで技術が進んでいます。一方、遺伝子治療は、はっきりとした成功例はまだほとんどありません。
 さらに、言うまでもないことですが、遺伝子組み換え作物は植物、遺伝子治療は人間に使う技術です。それだけで、扱い方も気をつけるべき点も取り巻く状況も、様々な点で全く異なってくると思います。(高橋)

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【Q】遺伝子組みかえ作物はどこがどのように危険なのか

 カフェの後、京都へ旅発った「動く遺伝子の話」をしてくれた高橋さんが答えています。長くて、ちょっと難しいかもしれませんが、ゆっくりと読んでみてください。

Q: 遺伝子組みかえ作物はどこがどのように危険なのか(子ブター)

A: まず、遺伝子組み換え作物とはそもそもどういうものか、ということを簡単に解説し
ます。
 人間が昔から行ってきた作物を改良する方法として、いわゆる「掛け合わせ」があります。異なる優良形質をもつ両親、たとえば「害虫に強い品種」と「おいしい品種」を掛け合わせて雑種をたくさん作り出し、その雑種集団の中から両親の優良形質の両方を備えたもの、すなわち「害虫に強くておいしい品種」を選び出す、交雑育種法と呼ばれるやり方です。これによって「害虫に強い遺伝子」と「おいしさを作る遺伝子」の新しい組み合わせをもつ生物が、人為的に作り出されることになります。
 一方、交雑という間接的な方法ではなく、直接狙った遺伝子を動かして、望む新しい遺伝子の組み合わせをもつ生物を作ろうというのが遺伝子組み換え技術です。上と同じ例で言えば、「害虫に強い品種」の細胞のゲノムDNAから直接「害虫に強い遺伝子」を切り出し、「おいしい品種」の細胞の中に挿入する、というやり方で「害虫に強くておいしい品種」を作るわけです。
 人の手が介入して遺伝子の新しい組み合わせを備えた生物を作る、という点ではどちらも同じなのですが、もちろん異なる点もあります。交雑育種法と遺伝子組み換え技術の大きな違いは、以下の三つです。

1.何度も掛け合わせを繰り返してたくさんの雑種を作り、望む組み合わせをもったものが偶然生まれるのを待つ、という交雑育種法に比べ、遺伝子を直接扱う方法は、目的の形質を備えた品種を作り出すのにかかる時間が短く、効率が良いと言えます。

2.膨大な数の遺伝子をもつゲノムの中で、遺伝子組み換え技術で操作される遺伝子はごく一部なので、作り出されたゲノムは、割合で言えば、大部分があるひとつの品種のゲノムのままです。これに対し、交雑育種法では、異なる品種の両親の遺伝子を(目的の遺伝子以外にも)ごちゃまぜにもつゲノムができます。

3.一般に交雑は近縁の生物種同士でしかできませんが、遺伝子を構成する物質であるDNAは全ての生物に共通しているので、遺伝子組み換え技術を用いると、「掛け合わせ」ができないような全く別種の生物(例:植物と細菌)の遺伝子による組み合わせも可能になります。

 さて、それではご質問の「遺伝子組みかえ作物はどこがどのように危険なのか」について考えてみます。

 遺伝子の本体であるDNAは、全ての生物に共通の材料と構造でできています。これ自体は、どのように入れ替えたところで物質として大した変わりはありません。また、植物細胞の遺伝子組み換えができるようになったのは1980年代初頭のことで、現在はすでに商品としての遺伝子組み換え作物が世界の21カ国で栽培されています。「遺伝子組み換え作物というだけで危険」ということはない、というのが現在の科学の見解です。
 むしろポイントは、組み換えに使われる個々の遺伝子が何か、どんなタンパク質を作るか、そのタンパク質が組み換え体の中でどう作用するか…といった点でしょう。
 遺伝子は全ての生物に共通の材料と構造でできていますが、タンパク質は、生物によって持っているものの構造が異なります。ヒトの体に有害なタンパク質というものもあります。さらに、これらのタンパク質は単独ではたらくだけではなく、複雑な相互作用のネットワークによって繋がり、互いに影響し合いながら機能しています。
 新たに作物に付加された遺伝子の作るタンパク質がそれ自体ヒトに害を及ぼすものだったら、もちろんその作物の安全性には問題があります。また、ある生物のネットワークの中ではたらいていた遺伝子が全く別の生物のネットワークに入ったとき、意図しなかった変化をもたらす可能性も、ゼロではないと思います。

 そこで、現在日本では、個々の遺伝子組み換え作物に対して安全性審査を行なうという制度がとられています。遺伝子組み換え技術によって作られた作物は全て審査を受け、それを通過した作物だけが輸入・販売を認められることになっています。
 具体的には、
①    挿入遺伝子の塩基配列がわかっていて、その中に既知の有害配列が含まれていな
いか
②    挿入遺伝子によって作られるタンパク質に有害性はないか
③    挿入遺伝子によって作られるタンパク質にアレルギー誘発性がないか
④    挿入遺伝子が生物のネットワークの中で間接的に作用し、他の有害物質を作る可
能性はないか
⑤    遺伝子組み換えによって作物の栄養成分に大きな変化が起こる可能性はないか
などの点が審査されます。
 ただし、厚生労働省が直接実験などを行なうわけではありません。安全性審査は、作物を開発した企業が必要な科学データなどを厚生労働省に提出し、内閣府の食品安全委員会が安全性評価基準に基づいてそのデータを検証し、安全性を評価する、という方法で行なわれます。
 この安全性審査を通過した遺伝子組み換え作物は、「科学的に危険でない」ということになるわけです。そして、審査を通過したもの以外は輸入も販売も行われないので、食品としての遺伝子組み換え作物は「科学的に危険でない」と言うことができると思います。

 ただし、この「科学的に危険でない」は、「100%安全」ということではありません。

 科学には、反証可能性という概念があります。反証可能性とは、「ある言明が観察や実験の結果によって否定あるいは反駁される可能性をもつこと」(大辞林第二版)で、つまり、現時点で「科学的に正しい」とされていることであっても、そこには常に「新しい発見や実験結果などが出てきてひっくり返される可能性」が存在している、ということです。世界の全てを知り尽くすということがありえない以上、科学に「100%」はないのです。

 生物の中の遺伝子とタンパク質の複雑な相互作用のネットワークについても、まだ全てが明らかになっているわけではありません。遺伝子組み換え作物が「科学的に危険でない」というのはつまり、「現時点で出ている証拠からは危険でないと考えるのが適当」ということなのです。(高橋)

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2006年6月 9日 (金)

【Q】DNAはからだに良いか

 DNAを食べたり、化粧品に入れたりするための製品が売られていますが、ほんとうに効果があるのでしょうか。カフェの司会をやっていた中村さんが答えてくれます。

Q1: 最近DNAのサプリメントが出ていますが、あれって本当に身体にいいんですか?(の)

A1: DNAということばの響きから、生き物の設計図である遺伝子が入っているような錯覚を持たれる方がいると思いますが、遺伝情報を担ったDNAが入っているわけではありません。「DNA入り」という表現は「核酸入り」ということで使っているようです。あくまで核酸という分子(物質)が入っていると解釈してください。
 さて、【の】さんのご質問の「本当に身体にいいんですか?」との質問ですが、「核酸は体に必要なもの」ということは言えますが、「核酸入りサプリメントが体にいいか」については、いくつかの条件つきであれば「Yes」です。
 私たちが日常食べている肉や魚や野菜などはみな細胞でできていて、当然DNAも含まれており核酸を食していると言えます。ですが、この核酸はこのまま核酸として体に吸収されるものではありません。食べ物は胃腸と肝臓で分解された後に体に行きわたります。
 さて、人間が必要とする物質には自分の体内で合成できるものと、外から取り込まなければならないものがあります。例えばビタミンCは体内では合成できず、外から取り込まなくてはなりません。
 一方、核酸は体内で合成しています。食した物を材料として自分で作り出しているということです。だったらサプリメントとして飲む必要がないのではないかとなります。
 ですが、加齢やストレスによって、この合成する能力が低下している時の補助食品としてならば、ある程度有効だろうと思われます。ただし、この核酸入りサプリメントも肉や魚と同様に消化器官で分解のプロセスを通ります。この時に核酸が分解されてしまったのでは、意味を成しません。直接核酸を核酸として体内に取り込めるか否かがサプリメント摂取の真価の分かれ道だと思います。
 ちなみに核酸(DNA)入りサプリメントの説明には「体内に取り込める高分子構造の核酸」といった文がついていますが、その有効性について本当に確かめようとしたら、本格的なサイエンスショップ(科学相談所)を設立して調査しなくてはならないかもしれません。(中村)

 核酸分子がどのくらいまで分解されて取り込まれるかということがキーとなりそうですが、高分子のまま体内に取り込むということはないだろうと思われます。せいぜいが、ヌクレオチドという「単位」のままということのように思われます。逆に、核酸を利用する場合にもこの単位にまで分解されていないと利用できませんので、高分子のまま取り込んでも意味がないということになります。

Q2: 化粧品に入っているDNAって何ですか?どういう効果があるんですか?(sarasara)

A2: 質問のDNAは核酸入りの化粧品のことだと思います。化粧品の真価は、表皮細胞に届くのか、真皮細胞に届くのか、はたまた皮膚の表面に乗っているだけなのかで変わってきます。核酸入り化粧品の有効性については私は「No」と答えます。なぜならば、真皮細胞に直接核酸が届くとは考え難いからです。
 食べて有効そうなものをすぐ化粧品にも配合したがる「医薬部外品」業界ですが、表面を被い、乾燥や紫外線から守る物質は作れても、皮膚の細胞内に届く物質となると、それも医薬品以外で安全なものとなると限界があるのではないでしょうか。(中村)

 危険ではないものなら、何でも入れてみるというのが化粧品と健康食品業界かもしれませんが、何度も何度も事故を繰り返していますね。

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2006年6月 8日 (木)

【Q】牛やブタからとったインスリンにはBSEの心配はないのですか?

 なかなか鋭い質問ですが、寺前さんがお答えしています。

Q: 牛やブタからとったインスリンにはBSEの心配はないのですか?(mana)

A: 最近,人畜共通感染症(zoonotic infection, zoonosis)が問題になっています。たとえば,ご質問にあるように,BSE(ウシ海綿状膿症,Bovine Spongiform Encephalopathy)や鳥インフルエンザなどが注目されています。
 ここにあげた2つの人畜共通感染症はまったく異なるタイプのものです。鳥インフルエンザはウイルスによるものですが,BSEの原因となる物質はタンパク質です。このタンパク質をプリオン,もしくはプリオンタンパク質と呼んでいますが,普通のヒトでも正常プリオンとして誰でも持っているものです。これが,何らかの原因で変異を起こすと,感染→発症とつながっていきます。BSEの感染経路については,はっきりと解明されているわけではありませんが,多くの場合,肉骨粉を通じた感染に代表されるように消化管から体内に入り,リンパや神経を経て,脳に入るといわれています。インスリンを作っているのは,膵臓のランゲルハンス島にあるB細胞といわれる細胞です。膵臓も消化器系としてくくられる場所ですが,消化液やホルモンを分泌する場所であり,栄養分を吸収する場所ではありませんので異常プリオンが蓄積することなないと言われています。そのため,ウシやブタからとったインスリンによって,BSEに感染するということは考えにくいです。
 また,インスリンを製剤とするためには,インスリンだけを取り出すことが必要です。これは,インスリンとだけ結合する物質を用いて取り出します。インスリンもタンパク質の一種ですが,この方法によって,BSEなどのタンパク質とは区別して取り出すことが可能です。そのため,取り出したインスリンがBSEの原因となるプリオンタンパク質などと混ざる可能性は限りなく低いと考えられます。(寺前)

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【Q】大腸菌の遺伝子は何を作っているのですか

 こちらも寺前さんの回答です。

Q: 大腸菌の遺伝子組み換えによりインスリンをつくってますが、もとの大腸菌の遺
伝子では何をつくってるのですか?(ねこ)

A: 大腸菌にヒトインスリンを作ってもらうためには,ヒトインスリン遺伝子を大腸菌に入れてあげる必要があります。もともと,大腸菌も生きているわけですから,大腸菌の遺伝子は,大腸菌が生きていくために必要な遺伝情報を含んでいます。たとえば,大腸菌の増殖力はすごいですが,分裂するためにも多くの物質が関与しているといわれています。そのため,大腸菌は本来の自分の生命活動のために物質を作りながら,外から入ってきたヒトインスリン遺伝子をもとにインスリンも作り出しているのです。(寺前)

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【Q】大腸菌の中でヒトのDNAが正しく複製できるのはなぜ

 カフェ当日、大腸菌にインスリンを作らせるお話しをしてくれて講師の寺前さんから寄せられた回答です。

Q: 大腸菌の分裂の際、人間の塩基構造は正しくコピーされるのは何故か?変異は生じないのか、大腸菌は人の塩基に対し、アレルギーを生じないのか?(hero)

A: 大腸菌は原核生物といわれる仲間です。原核生物は原核細胞でできています。原核細胞とは,遺伝情報であるDNAが核という構造の中に入っておらず,細胞の中に「裸」で存在している細胞のことです。ヒトは核という構造の中にDNAを含んでいる,真核細胞でできています。
 大腸菌は,DNAから蛋白質を作り出すために自分のDNAかよそから来たDNAかを区別してはいません。本来ならば,細胞の中には自分のDNAしかないはずです。そのため,外から入ってきたヒトインスリン遺伝子は,大腸菌にとっては自分のDNAなのか,違うのかを区別することなく蛋白質を作り出しているのです。
 DNAの変異ですが,起こる可能性はありますが,多くのDNAの変異に関しては修復するされていると思われます。また,大腸菌からヒトインスリンを取り出すときに,ヒトインスリンとだけ反応する物質を持ちいていますので,変異によって生じたおかしな蛋白質除くことができます。アレルギーに関してですが,どのようにアレルギーを定義するかによって答えは異なりますが,仮に外からのDNAを受け付ける,受け付けないで考えた場合,うまく大腸菌の中に外部からDNAが入りにくいということはあります。そうした場合は,ヒトインスリンを作り出さないので,問題になりません。(寺前)

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2006年6月 7日 (水)

【Q】遺伝子はどうやってヒトの形をコントロールしているのか

 カフェで、手をつくる遺伝子の話をしてくれた遠藤さんからのお答えです。

Q: (形をつくるDNAに寄せて)ホックスDやAなどのタンパク質はどのくらいの違いで目に見える違いを生じるのでしょうか?コントロールする方法は今のところないのでしょうか?(コメ)

A: 例えばヒトの手足の長さに見られる個人差は、ここで言う「目に見える違い」になるかと思います。しかし「手足の長さの個人差」が「ホックスの働き方の差」によるのかは、分かっていません。
 ヒトの場合、受精後2ヶ月くらいまでには大人と同じ形の手足が完成しています。しかしこの時の体長は数センチで、手足の長さも1センチあるかどうか、と言ったところでしょう。ホックスが手足を作るために働いているのは、これよりもさらに前の時期です。ヒトはこの小さな手足を、何年もかけて何百倍もの大きさの大人の手足に成長させていきます。この時の成長差の方が、個人差に直接影響するのではないかと思います。
 ホックスが働く体の中の領域を変化させることで、ホックスの役割を理解しようとする研究が現在たくさん行われています。しかし今のところ、ホックスをコントロールして、自由自在に好きな形の体を作ることには、誰も成功していません。
 逆に意図せずにホックスの働きを邪魔してしまったために、体に障害が出てしまったと思われる事例はたくさんあります。サリドマイド事件は、その一例です。1998年にアメリカの著名な発生生物学者テービン博士は、「サリドマイドとは、ホックスの働く場所を乱すことで、手足の奇形を作ってしまうのではないか?」という説を発表しました。妊婦の摂取した薬・サリドマイドによって、胎児の手足の発生速度が変化し、それによってホックスの働きが乱れてしまったではないか、と言うのです。実際には、サリドマイドが手足の奇形を誘導するまでの仕組みは、未だに分かっていません。しかしこの説にはかなりの説得力があります。
 生き物は人間が想像も付かないほどの精密な仕組みを駆使し、その体を作っていきます。それをコントロールしようなどとは、考えない方がいいのかもしれません。(遠藤)

 ヒトのからだをつくる遺伝子のはたらきがわかってくると、どうしてもそれを利用して、スタイルの良いからだを作れないか、というような意見が出てきますが、基礎研究でわかってきたことを安易に「利用」してやろうなどと考えると、まだわかっていないしくみにより思わぬ副作用が生じることがよくあるものです。
 何かがわかったとしても、それはほんの一部であるという謙虚な気持ちが大切だということでしょうか。

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2006年5月30日 (火)

【Q】奇形の出現は確率的にやむをえない?

 これは講師の遠藤さんが、ずいぶん前にお答えくださっていたものですが、私のミスで載せ忘れていたものです。お詫びして、掲載させていただきます。

Q: 形をつくるDNAについて、先生の説明では確率的といわれましたが、形をつくるDNAのカタヨリが発生することでできる奇形児は、確率上発生するのはやむをえないという認識でよろしいでしょうか(ナルミ)

A: カフェ当日、「あるタンパク質が手足のもととなる肢芽の中を広がっていく時、肢芽の中にこのタンパク質の『濃度の差』が生じる」という話をしました。このタンパク質は細胞などの障害物の隙間をぬって広がるため、多くのタンパク質は障害物にぶつかってしまって作られた場所の近くに留まり、障害物にぶつからず遠くまでたどり着けるのは『確率的』にわずかとなります。結果として、このタンパク質が作られた場所の近くでは濃度は濃く、遠くに離れれば離れるほど薄い、という差ができるのです。
 障害物にぶつかるかどうかは確率的な出来事である以上、結果としてできる濃度に誤差が生じる可能性は常にあります。ナルミさんのおっしゃる通り、この誤差が生じた場合に奇形となってしまう可能性は、理論的にはあり得ます。しかし実際には、ここで濃度の差を作るタンパク質の数は、数えることができないくらい多いと思われます。数が非常に多くなると、誤差が生じる可能性は限りなくゼロに近くなります。「正常な状態」では、ナルミさんのおっしゃるような「カタヨリ」が発生することはまずあり得ないと言って良いでしょう。
 今敢えて「正常な状態で」と言いました。奇形が生じるのは、何らかの原因がもとで体作りの仕組みのバランスが崩れてしまった時、つまり異常な状態なのです。例えば妊娠初期にあまりに多量に摂取すると胎児に奇形が生じる薬や栄養素がいくつか知られていますが、これらの多くは体作りに必要なバランスを崩してしまうのだと考えられています。生物の持つ精密なメカニズムは、時に外の世界からの影響を受けて乱れてしまう、とても繊細なものなのです。(遠藤)

 奇形と言っても、多くの場合正常との間に質的な差があるわけではなく、どうも人間が感情的に大きく扱いすぎるケースがあるのが気になります。生命にかかわるようなものでない偏差については、ゆらぎの範囲であると思っていて良いのではないかと思います。

 欧米人(アングロサクソン)の中に日本人(モンゴロイド)がひとりだけいたりすると(あるいは逆のケースでも)、不自然に見えますが人間としての機能に違いがあるわけではないというような話を思い出します。

 生物学の問題というより、社会の問題という気がしないでもありません。

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