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2006年4月15日 (土)

【Q】DNA鑑定(推理ドラマでよく使われる)って?

 恵さんからの質問「DNA鑑定(推理ドラマでよく使われる)?」というのがありました。中村さんはもともとこのあたりにとても興味があって、「今さら聞ける!?DNA」カフェを企画したといういきさつもあるようで、中村さんに答えていただきました。力作です。

Q: DNA鑑定(推理ドラマでよく使われる)?(恵)

A: 中村です。DNA鑑定は私もとても興味があります。恵さんの質問カードに(推理ドラマでよく使われる)とあるので、DNA鑑定の中でも「犯罪捜査」に使われる手法をおたずねだと思い、お答えしたいと思います。

■DNA鑑定を可能にしていること
 ヒトは一卵性双生児でない限り、ひとりひとり固有のDNAを持っています。そのDNAは体のどの細胞にもあることから、血液、体液、唾液、爪といった細部(細胞)から検出することができます。
 ヒトのDNAは23対46本の染色体で構成されており、すべてをつなげると約60億の塩基(ATGC)の並びになります。そして部分的にひとりひとり違う配列を持っています。このため指紋のように同一人物であるかを判断できるとして、ここ20年ほど研究と解析技術が進み、犯罪捜査にも導入されるようになったのです。特にPCR法という「特定のDNAを何十万倍という桁で増やす技術」が大きく貢献しています。

■DNA鑑定は何を見ているのか
 さて、犯罪現場に加害者とものと思われる血痕が残っていたとします。一方 不審者(修正) 捜査対象者を捕まえて、その人のDNAを採取。残されていた血痕のDNAと同じか否かを鑑定するのはどうしているかと言うと、

「60億の塩基配列すべてを見比べているわけではない」のです。

 これはやろうとしたら作業として途方もないことで、世界的プロジェクトであるゲノム解読と同等の作業量です。ですから犯罪捜査にはもっと単純なDNAの見分け方を用いています。

 そのひとつが「MCT118型鑑定」というものです。(ここからは参考文献にしたがって私なりに解説します)
 ヒトの第一染色体のMCT118と名づけられたところに「GAAGACCACCGGAAAG」という16塩基配列が繰り返し出てくるところがあります。父親、母親それぞれから受け継いだ2ヵ所からそれぞれその繰り返し数が測定できます。例えば、「16回と27回」、「13回と32回」といったパターンが見られます。このパターンがヒトによって違うことから、2つのDNAが同じか違うかを判定する方法です。
 補足的方法として「HLADQα型鑑定」というのもあり、第6染色体の特定の箇所の6通りの配列、21のタイプの違いを利用するものです。また「TH01型鑑定」と言って、第11染色体のTH01という部分を調べる方法もあります。これらのDNAの個別の違いに血液型の分類を加え、同じか否かを鑑定しているそうです。

■DNA鑑定の犯罪捜査における役割
ここで重要なのが、パターンが違った場合「別のDNAである」ということは証明できても、パターンが同じだったとしても「同じDNAである」と断定することはできないということです。
 なぜならば、同じパターンの人は確率的に存在するからです。家族ならますます確率はあがります。例えばMCT118型鑑定に血液型鑑定を掛け合わせても1000人に一人同じパターンの人がいてもおかしくないという調査報告もあり、例えば人口10万人の市で起きた事件で、一人の容疑者のDNAのパターンが一致したとしても、同じ市内には同じパターンの人は約100人いる計算になります。
 もちろん「MCT118法」以外の鑑定方法を加えることで、その出現頻度(確率)を小さくすれば、限りなく「同じDNAである」という結果は得られます。ですが、どこまで行っても「100%同じ」とは言い切れないのです。
 マスコミなどが「DNA鑑定によって犯人を特定」などと書くのは、DNA鑑定を過大評価していると言えます。DNA鑑定の他に有力な証拠がない限り、「鑑定結果が同じ=100%犯人」ではないことを知っておく必要があります。本当の犯人は捕まらず何食わぬ顔でいるかもしれないことを考えると、「犯罪捜査におけるDNA鑑定への過剰な依存」は危険であると思います。
 ただ「鑑定結果の上、違うDNAである」と出た場合は「別人物」の確固たる証拠となるので、冤罪を生まない側面もあります。

《参考文献》
『DNA鑑定のはなし 犯罪捜査から親子鑑定まで』福島弘文著(裳華房)
『DNA鑑定―科学の名による冤罪』天笠啓祐・三浦英明著(緑風出版)

【おまけのお話】
■DNA鑑定の落とし穴
 最近、「DNA鑑定書付こしひかり米」や「DNA鑑定書付牛肉」といった商品があります。いかにも「本物」のようですが、疑いの余地があることをご存知でしょうか?実は同じDNAだからと言って「産地」や「育て方」が違う場合があるということです。○○産こしひかりの種をまったく違う外国で栽培しても、同じDNAを持っています。さらに水や肥料や環境がどんなに違ってもDNAは同じです。
 ブランドイメージに惑わされない消費者の目、舌、知識の向上も、科学技術コミュニケーターの役割だと思い書き加えました。(もともとは栃内先生に教えていただいたのですが)(中村)

 DNA鑑定もたくさんある鑑定手法のひとつにすぎないということですね。新しい技術が登場するとついつい過信しがちになるものですが、他の証拠をなおざりにしてDNA鑑定だけで結論が出せるものではないということをしっかりと押さえておきたいところです。

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2006年4月10日 (月)

【Q】ヒトの起源について

 カフェから1ヶ月以上がたちましたので、いろいろな記憶も薄らいできたのではないかと思いますが、こちらとしては宿題を終わるまでは頑張りたいとおもいますので、よろしくお願いいたします。今回はヒトの起源についてのいろいろな質問に、ヤマトヒメミミズの幹細胞を研究している杉尾さんが答えてくれます。(カフェの翌日の道新に、写真がばっちりでていた人です。カメラマンには受けが良いのかもしれません。)

Q1: 現人(新人)は約10万年前、一人のアフリカ女性から生まれ拡散したというが本当か?(君の名は)

A1: 現代人(新人)は20万年前のアフリカにいた一人の女性から誕生したということを証明する報告があります。これはミトコンドリアのDNAの中にある特定の塩基配列を調べることにより、明らかになりました。ミトコンドリアとは、細胞の中で酸素を使ってエネルギーを作り出す細胞小器官のことで、卵にも精子にもミトコンドリアが存在します。しかし、受精の際に卵は父親の精子から核だけしか受け取りません。したがって子供はミトコンドリアを母親の卵からのみ受け継ぐことになります。
 このように子供がもつミトコンドリアは必ず母親に由来するということが、人類の起源を知る上でとても重要になります。(杉尾)

Q2: 確率統計は必ず前提(仮説)や誤差があるがもっと研究が進めば違ったなんてことはないか?ミトコンドリアではなく核のDNAを使ったら違う結果(例えば原人や旧人の血が混じった)がでる可能性は?(君の名は)

A2: ミトコンドリアのDNAだけでなく核のDNAであるY染色体の塩基配列を使っても、人類の起源を探る研究がされています。そして、全ての現代人の祖先がアフリカ起源であることがわかっています。研究が進めば仮説が違ったと言うことは全ての研究においてありえることだと思います。しかし、ミトコンドリアDNAとY染色体のDNAの両方を使った実験で支持され、さらに化石の調査研究によっても仮説をサポートする結果が得られているので、今のところ「現代人はアフリカの一人の女性から誕生した」という説はもっともらしい仮説だと私は思っています。
 ちなみにY染色体は必ず父親から受け継ぐものなので、ミトコンドリア同様、人間のルートを探っていくのに都合の良い遺伝子です。核にある他の遺伝子は両親から同等に受け継がれるため、1世代さかのぼると先祖が2人になり、もう1世代さかのぼると先祖が4人になり・・・と、世代を遡れば遡るほど複雑になって行きます。さらに、これらの遺伝子は、減数分裂の時に組み換えがおこるため、世代ごとの情報がごちゃ混ぜになってしまいます。そのため、Y染色体以外の核のDNAで祖先をたどることはほとんど不可能だと思います。(杉尾)

 この答のように、ヒトの場合にはミトコンドリアのDNAをたどれば女系の系譜を、Y染色体DNAをたどれば男系の系譜をたどることができます。もちろん、現時点ではこうだろうというふうに信じられていることでも、99.9%は仮説という科学の大前提から逃れることはできませんので、この仮説が将来どうなるかは誰にもわからないのですが、まあ信じていても大丈夫だと、私も思います。

 さて、杉尾さんは、3月18日の「このまま時がたつと今の人間から別のDNAをもつ新人間のような集団が将来現れますか」のコメント欄にある「ネアンデルタール人が新人に進化したと解釈すべきでしょうか、それとも「イヴ仮説」的に捉えるべきでしょうかということについてもコメントしてくれました。

C: ネアンデルタール人が新人に進化したと解釈すべきでしょうか、それとも「イヴ仮説」的に捉えるべきでしょうか。(のべ)

A: 人類の起源をめぐる仮説として「多地域進化説」と「アフリカ単一起源説(ミトコンドリア・イヴ仮説)」の二つがあります。「多地域進化説」とは、現代のアジア人は北京原人から、現代のヨーロッパ人はネアンデルタール人から、というように、人類は世界各地で別々に進化を遂げたという説です。「アフリカ単一起源説」とは、現代の人類の祖先はアフリカに生まれ、その後各地に広まったという説です。ミトコンドリアDNAを使った研究結果が得られる前は「多地域進化説」が優勢でしたが、近年では「アフリカ単一起源説」がもっともらしいと考えられています。(杉尾)

 確かに、この説明が現在ではもっとも有力な仮説ですので。しかし、研究者の中にはネアンデルタール人とホモ・サピエンスに混血があったのではないかと推測している人もいるようです。時期的には混血していても不思議はないと思うのですが、混血児に子孫ができにくいというようなことがあれば、混血の証拠は遺伝子にはなかなか残りにくいと思います。

 いずれにせよ見た人はいないのですから、99.9%は間違いないとしても仮説は仮説です。

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